なぜ業務指示の「全社改革」は進まないのか ― 本部を動かすヒント

店舗の実行力を高めようと、指示の書き方を整えたり、配信ルールを定めたりする企業様が増えています。

こうした取り組みは、戦略を現場に正確に伝えるために欠かせないものです。けれど、いざ本部全体を巻き込もうとすると、思うように取り組みが進まないという声をよく耳にします。

「店舗のために、そこまでやる必要があるんですか?」
「スタッフに分かりやすく指示するのは店長の仕事では?」
「店舗の実行力を上げるのはSVの役割ですよね?」

そんな反応が返ってくることも少なくありません。

本部は店舗の後方支援──それは多くの方が理解しているはずなのに、なぜ"店舗のために全社一丸となり動く"ことが難しいのでしょうか。

その背景には、次の4つの要因があります。

1. 成果の因果が自分の仕事と結びついていない

本部社員は、「企画を立てる」「施策を出す」「資料をまとめる」といったアウトプットの完成度で評価されていることが多いです。

つまり、何かを"出すこと"までが仕事のゴールになりやすいのです。

その結果、「店舗でどう実行されたか」「意図が伝わったか」「結果が出たか」といった実行フェーズの成果とは、日常業務の間に距離が生まれがちです。店舗が思うように動かない状況を"自分の結果"として実感しにくい──この構造こそが、店舗の実行力を高めるための取り組みが進みにくい一因になっています。

2.「事務作業化」が、"伝える仕事の価値"を低くしている

本来、業務指示や情報配信は、戦略を実行へと変える重要な"接合点"です。しかし、多くの組織ではそれが「文書整備」や「事務作業」として扱われ、"伝える"という仕事自体の重要性が過小評価されています。

そのため、店舗への情報発信は"送る"こと自体が目的化しやすく、「どう伝わるか」「どう実行されるか」という視点が抜け落ちてしまいます。結果として、指示改善への投資は後回しになり、店舗の実行力を上げる余地が放置されてしまいます。

3. 成果が遅れて返ってくる構造と、短期サイクルの壁

業務指示の改善は、すぐに成果が見えるものではありません。店舗で実行されて初めて結果が現れるため、効果を実感できるまでには時間がかかります。

一方で、本部の仕事は週次や月次といった短期サイクルで回っています。このリズムの中では、「効果が数か月後に出る改善」は優先順位が下がりやすく、「重要なのは分かっているけど、今は手が回らない」と後回しになってしまうのです。

4. コストだけでは、人は動かない

全社で協力を得ようとするときによく使われるのが、「コスト削減」を軸にした説明です。

「あなたがプラス20分かけて正確で伝わりやすい指示を書けば、店舗数×店長分の時間が削減できます。全社最適を考えてください」

これは上層部には通じやすい理屈です。しかし、実際に指示を作成する担当者にはなかなか響きづらいのが現実です。コスト削減は"会社のメリット"であって、"自分のメリット"としては感じにくいからです。

では、どうすれば本部は動くのか ― "本部の悩み"を出発点にする

私が前職で業務指示の改革を進めていたとき、最初の壁がまさにここにありました。

「店舗のため」と言っても響かず、「コスト削減」では動かない。

そこでまず取りかかったのが、部署ごとの指示配信にまつわる"お困りごと"を聞くことでした。

「書いた通りにやってくれない」
「期日を守ってくれない」
「集計や確認に時間がかかる」
「実行結果が分からず、企画の良し悪しを検証できない」

──そんな声を一つひとつ整理していったのです。

そして、その課題を業務指示の設計でどう解決できるかを一緒に考えました。

「こう書けば確実に実行される」
「配信の順番を整理すればスケジュールが立てやすく、期日も守られる」
「報告方法を見直せば、集計にかかる時間を減らせる、実行結果も見えるようになる」

そうして改善を重ねるうちに、少しずつ空気が変わっていきました。

この経験で強く感じたのは、人を動かすのは"正論"ではなく、"納得できる理由"だということです。相手の困りごとに目を向けた瞬間、改革は「全社の取り組み」から「一人ひとりの改善」へと変わりました。

"相手を動かしたいなら、まず相手の困りごとに目を向ける"これは言われれば当たり前に聞こえる、交渉の基本です。ですが、店舗のため、全社のためと思うほど、本部の視点で"どうすべきか"を先に決めてしまいがちです。その結果、相手(=指示を出す側の他部署)にとってのメリットを語りそびれてしまうことが多いのです。

「協力してもらう」から「自分たちもよくなる」へ──この意識の転換こそが、全社改革を動かすスイッチになります。

まとめ

本部が変われば、店舗はもっと動きやすくなり、結果として全体の業務効率が高まります。そして、店舗が効率的に動けるようになれば、本部の業務も精度が上がり、より生産的なサイクルが生まれます。

全社改革というと大きな話に聞こえますが、その第一歩は、「一人ひとりのムダを洗い出す」ことから始まります。まずは、指示を出す側が抱えている課題を整理し、それを一緒に解決するところから始めてみてください。

もし「何から取り組めばよいか分からない」「自社に合う方法を知りたい」と感じたら、ぜひ私たちまでご相談ください。

店舗と本部の両方が効率的に動ける指示配信の仕組みを、一緒に考えていきましょう。

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