店舗への指示で「使ってはいけない」便利なあの機能とは?
本部依存の利便性向上が引き起こした、店舗の悲劇
本部から店舗へ指示を出すツールは沢山あります。私が勤めていた小売チェーンでも、FAX→メール→グループウェア→店番長と使うツールが変化しました。
もちろん利便性はツールが変わる度に良くなりましたが、中でもメールからグループウェアに変わった時には一気に機能が増えたことで格段に使いやすくなったことを覚えています。グループウェア内メールの「本文修正機能」も、その内の一つです。
メールを送った後に添付資料を貼り付け忘れたと気づいても一言添えて修正すればOK、送信者以外も本文に加筆をすることができる、それはそれは便利な機能でした。
本部から店舗への指示出しにおいてもこのグループウェア内メール機能が使われたのですが、そこで問題が起きました。この便利な「修正機能」で繰り返される指示の変更に、店舗スタッフが振り回される事態が発生してしまったのです。
店舗は主に売り場で接客対応と並行して業務を行うため常時パソコン等の端末で更新通知を見ることができません。指示配信後すぐに実行してしまった可能性があります。実行後に指示内容の変更があれば当然やり直しが発生します。
完了報告後では変更に気づくことすら出来ませんし、周知指示であった場合は誤った実行となり重大なミスにつながる恐れがあります。
これが慢性化し、店舗では「もしかしたら、まだ変更や追記がされるかもしれないし...」と、手戻りを出来る限り防ぐため、期日近くに指示を実行しようとするような事態までも起きてしまいました。
そう、この便利な指示修正機能こそが店舗への指示で「使ってはいけない」機能だったのです。
「出来ない」から気づいた問題の本質
実はこのことに気づけたのは、店番長を導入してからでした。
店番長は店舗へ指示が配信された後、指示内容の修正が出来ません。添付資料の差し替えはもちろん誤字脱字の1文字の修正すら不可能なのです。まさに指示の変更をさせない為、敢えて「出来ない」のです。
では、指示の内容をどうしても修正しなくてはならない場合はどうするのか?その場合は指示を出し直すという方法をとります。一度出した指示の内容を修正するのではなく、新しく指示を出します。
店舗スタッフが誤った元の指示と混同してしまわないように指示者が元の指示を強制終了させることも可能です。そうすることで最新の正しい指示のみが未完了タスクとして残る為、どれが実行すべき指示であるか分からなくなってしまうことはありません。
この「修正出来ない機能」と「変更する場合は指示を出しなおす」という運用は、店番長スタート時から店舗スタッフにとても好評でした。導入後アンケートにも「導入してよくなったこと」として多く挙げられていたほどです。
反対に、修正できる環境に慣れ切っていた本部では、スタート時に「不便である」という声が多くあがりました。まさにこの声こそが本部依存の利便性が「常態化している」現状を表していました。
本部ではこの問題を解決すべく、指示の元となる営業対策会議の日程を前倒し指示の作成に余裕を持たせるスケジュールへ変更、また全ての指示に対し関係者が配信前に内容確認することを必須としました。
正確さと計画性を優先するために指示を出すまでの時間は少々長くなりましたが、店舗が指示修正を恐れて発生していた待ちの時間や指示内容に対する質問が大幅に削減された為、
実行までのスピードはむしろ早くなりました。
そしてこの取り組みには各部署間の連携が不可欠であった為、本部全体のコミュニケーション量が増え組織力を高める非常に良い機会となりました。
この店番長の修正「出来ない」機能が無ければ「指示の正確さの重要性」や「指示の修正が必要になる根本原因を断つ」という本部の本質的な課題解決に取り組むことは、いつまでも経っても出来なかったかもしれません。
機能が存在することで利便性が上がることももちろん多くありますが、それは果たして本質的な改善になるのか?という視点を常に忘れずに、これからもお客様にとってより良いサービスを作っていきたいと改めて思いました。
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