民主主義は本当に最善か

「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」とはイギリスの元首相ウィンストン・チャーチルの言葉です。たとえば専制君主制が行ってきた民衆の弾圧が大きな反動となってフランス革命にいたった民主主義への政治体制の移行を見ると、人類がいきついた最善の政治システムとも言えるかもしれません。新しい政治システムでは共産主義という実験も失敗に終わったといっていいでしょう。ソ連や中国の一党独裁政治は何百万人にのぼる粛清の犠牲者を生み、一方は崩壊し他方は苦し紛れに導入した市場経済原理との間で苦しんでいます。

しかし、最悪とチャーチルが言うのも分かります。ヒトラーを生んだのも民主主義でした。その当時もっとも民主的といわれたワイマール憲法のもとで、彼は国民の投票で選ばれたのですから。そのヒトラーを生んだきっかけは第一次世界大戦によってドイツに課せられた莫大な戦争賠償金です。GDPの何十年分にも及ぶ過大な賠償金は国民の理性を奪ってしまった。20世紀は戦争の世紀と言われますが、1億人以上の戦死者を生みました。当時軍事国家となった日本も含めてほとんどが民主国家でした。一方で前民主政治体制だった19世紀の戦死者は2000万人弱といわれています。

この戦死者の数の比較だけみても、チャーチルの言っているようにそれでも民主主義が最善といえるか私には大いに疑問です。民主主義の弱点は今回のトランプ現象でも指摘されているとおり大衆迎合主義への傾倒です。国民一人一票という民主主義が行き着いた究極の平等民主システムが先進国の常識となっていますが、そのシステムでトランプ大統領を生んだアメリカは、100年前第一次世界大戦のきっかけとなった保護主義経済政策を彷彿させます。自由と平等は尊い理念ではありますが、人類が絶えても堅持しなければならないほど重要でしょうか。

もしかしたら、一人一票という民主政治の原理原則を見直す必要があるかもしれないと感じています。極論を言えば、年齢や納税額や賢さ(どう計るかは難しいが)に応じたウェイトをかけた非平等投票システムとかが議論に登るかもしれません。しかし、おそらく不幸にもトランプやヨーロッパの保護主義がきっかけとなり100年前と同じ轍を踏んだ結果、恐ろしい災厄が人類を見舞ったというようなことがなければ、変わりようもないかもしれませんが。

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