売場のPDCAにまつわる経験談「10,000個のパンを売り切った男」

私は昨年の5月まで、全国330店舗規模のスーパーに勤務しておりました。その時の売場での経験談を書きたいと思います。

33円パンの発注数量計画

あれは私がまだ入社2年目で、静岡の沼津にある店舗に転居を伴う異動をし、実家の大阪を離れて初の一人暮らしをしていた頃でした。

「大総力祭」と銘打った大々的なチラシを全社で打つことになり、そのための準備として各商品の発注数量を鉛筆ナメナメしながら考えておりました。

当時はまだEDLPや自動補充ではなかったため、特売品の発注は売場担当者が商品名、売価、原価を見て売れるか売れないかの判断を行い、展開場所を売場のMAPに落とし込み、その上で納品日とケース入数、仕入金額を確認し、数量を発注システムに入力。商品が納品されると、売場に陳列して初めてお客様の手元に届くというプロセスでした。

その時、私が鉛筆を舐めながら仕入計画を考えていたのは「パン」です。つぶあんパン、こしあんパン、クリームパン、ジャムパンの4品で売価33円、原価も33円という売っても儲からない商品でした。

当初は利益も出ないチラシ専用商品なので、4品で計2,000個を仕入れる計画をしていたのですが、当時の厳しい上司からダメ出しを食らってしまいます。

上司からの叱咤激励

「2,000個?いやいや...そんな魂もこもっていない発注数量で佐藤さんはいいんですか?チャレンジ精神とか無いの?」と。

この方はあるべき売場の構築については一切の妥協を許さないタイプでした。そのおかげで部下である私も販促物の取り付けといった「実行力」や、売場の確認や発注、勤怠管理といった「オペレーション力」が急速に向上し、入社2年目にして食品の売上構成比20%を占めるデイリー食品全体を担当させてもらっていました。

私の性格を知ってか知らずか、この上司の一言で火が付きます。「よし!だったら誰も挑戦したことがない数量を販売してやるぞ」と。 一緒に働いていたパートさん達と作戦会議をして、発注数量を5倍の10,000個に増やしました。商品を陳列する場所もパン売場ではなく、青果のマネジャーに相談して店頭の目立つ一等地を使わせてもらうことにしました。

すると、今度はパンのメーカー担当者が飛んできました。「発注数量をお間違えではないですか?」と。1,000個を10,000個と誤入力したと思ったのでしょう。10,000個で合っていると告げると、なんとこのお店の発注数量を急ピッチで間に合わせるために1ラインを独占してパンを製造してくださいました。

納品されてきた時のパンバットの山は、今でも忘れません。 えらいことしちゃったなと思いつつ、脚立に上ってピラミッドのように33円パンを陳列するとどんどん売れていきます。1時間ごとに更新される POS実績を掲出し、進捗をチームで共有。消化率に基づいて展開場所もリアルタイムで店内の至る所に増やしていきました。

10,000個のパンを2日間で完売させる

こんなに単品に力を込めて販売した経験が無かったため、2日間で10,000個が完売した時にはチームの皆さんと喜びを分かち合いました。 若かったからできたことかもしれませんが、無茶とも言える数字にチャレンジし、展開場所を交渉し陳列。販売数量をチェックしながら次の手を打ち、どんどん補充をしてお客様の目に触れ、手に取って頂きやすいように仕掛けたというこの経験は後の仕事にかなり影響を与えました。

沼津市の人口は18万人なので、人口の約5%がきっと食べたであろうこのパンの販売から学んだPDCA。 おかげでこの件から私は「10,000個のパンを2日間で販売した男」と語り継がれることとなります。(じつは味を占めてこのお店の開店2周年記念に22円パンを違うメーカーさんに製造してもらい、これも8,500個販売しました)

ただ忙しいだけではなく、自らのアイデアや努力が結果に結びつく瞬間は、小売の仕事ならではの魅力です。売上が伸びたときの達成感や喜びは、日々の忙しさを乗り越える原動力となります。一方で、時には売上が伸び悩んだり、予期せぬ問題に直面することもありますが、それらの困難に立ち向かうことで、チームメンバー同士の結束がより強固になります。協力し合って困難を乗り越えたときには、えも言われぬ喜びの瞬間が待っています。

挑戦と成長の場を与えてくれた小売の仕事を、心から楽しんでいた頃のお話でした。

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